祝福無き『欠地王』。愚かで無能な『失地王』。獅子心王の弟であり反逆者。彼は本當に愚王であったのか。それを確かめる術はない。カルデアにさえ。英霊として顕現した彼の物語が、生前と同じ道を辿るとは限らないのだから。
『……黒獅子の名の下に、この土地は腐る。塵も灰も、何一つ殘す事はない』
○霊基第一
この姿は、正確にはジョン・ラックランドであってジョン・ラックランドではない。古今東西から、民を恐怖に陥れた『暴君、暗君、愚王』達を寄せ集めた暴虐の呪いの集合體―――黒獅子である。彼が霊核を砕いたとある英霊の鎧に呪いを詰め込んでいる形だが、何故霊核を砕かれた英霊の鎧がジョンの所有物として殘り続けているのか、それは彼自身にも解らない。ある答えを推測しては、それを頭の中で打ち消していくのだが―――その際の苛立ちが、ますます暴君の呪いを色濃くしていく。
記憶そのものは他の形態のジョンと共有しているが、人格はほぼ別物。しかし、他の形態のジョンがショックを受ける事実などを知ると、しっかりと黒獅子も衝撃を受ける。
○霊基第二
まだ15才前後と見受けられる若き姿。父親の下で、將來の為に大切に育てられていた少年から青年に羽化しようとしている時期のジョンである。この時期こそが、ジョン王の人生での全盛期だったという事なのかもしれない。生まれた時に渡せる土地がなかった事に負い目を感じた父王ヘンリーⅡ世は、ことさらジョンを可愛がった。ジョンもまた、兄達と違い父に対して忠実であった。もっとも、青年となった後―――ヘンリーⅡ世と敵対した兄、獅子心王へと寢返り、その裡切りが父を失意の死に追い込んだのだが。
「父上に溺愛されていただけの時期が俺の『全盛期』か……ハハ、まあ、俺程度じゃそんなものだろう。気にしちゃいないさ。ただの事実だ」
○霊基第三
一人の人間としては枯れきった、死に向かう時期のジョン王の姿。
兄や姉を失い、土地を失い、富も名聲も失った姿である。だからこそ、と、若き姿(霊基第二)のジョンは神々の力を注ぎ込む為の外見はこの姿であるべきだと考えた。この狀態のジョンは基本的に悪意や憎悪が薄いが、それは『己は若き姿の自分が設定した復讐を行使する、暗愚という名のシステムに過ぎない』と認識しているだけで、復讐の手が休まるわけではない。
霊基第三においては、土地のみならず歴史そのものをマグナ・カルタを模した羊皮紙の中に封じ込めて崩壊させる。彼にとっては、土地=歴史というイメージが強くあるのだろう。
この世界におけるジョンは、兄に対する悽まじき嫉妬と憧憬を併せ持つ有能な『弟』であり、その感情を拗らせ続けたまま人生を足掻いた愚王でもある。幼少期から、9才年上の兄である獅子心王の苦悩と欠點を家族の中で唯一(母親も半分見抜いてはいたが、それ以上に)理解しており、兄を王―――英雄という束縛から解き放つ為に色々と動き続けた。兄がアッコンでの捕虜虐殺という兇行に出た後、それを止められなかった事を悔やんだジョンは、フィリップⅡ世の算段に乗るフリをして兄を國元に帰さないように動いた。その間に自分が王となる事で兄を王という呪いから解放しようとしたのである。しかし、彼は兄の事は見抜けても民眾の事は理解できていなかった。その歴史に殘る苛烈な虐殺すらをも、獅子心王による英雄的行為だともてはやす民眾を見て絶望したジョンは、愚王への道を転がり落ちる。それが本來の能力なのか、兄の名譽の為に暗君を演じていたのかは、もう誰にも解らない。
恐らくは、ジョン本人にさえも。
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